大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和34年(行)9号 判決

大阪府布施市森河内町四八九番地

原告

平井君枝

同府同市永和二丁目三番地の二三

被告布施税務署長

松田寿栄男

右指定代理人検事

平田浩

法務事務官 永田嘉蔵

大蔵事務官 平井武文

畑中英男

片岡忞

右当事者間の昭和三四年(行)第九号贈与税決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告が原告に対し、昭和三三年六月一〇日付でなした贈与税の課税決定は、これを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

(双方の申立)

原告は、主文と同旨の判決を求め、被告指定代理人らは、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

(原告の請求原因)

一  被告は、原告がその夫訴外平井房治から大阪市城東区永田町東一丁目一六番地の八、宅地六二坪五合(以下、本件土地という。)の贈与を受けたものとして、昭和三三年六月一〇日付で、贈与価格を二二五、〇〇〇円、課税価格を一二五、〇〇〇円、贈与税額を一八、七五〇円、無申告加算税額を四、五〇〇円とする贈与税の課税決定をし、この旨原告に通知した。そこで、原告は、同月二五日付で被告に対し再調査の請求をしたところ、同年七月一〇日付で同請求を棄却する旨の決定の通知を受けたので、さらに、同月二〇日付で大阪国税局長に対し審査の請求をしたが、同年一二月三日付で右審査請求を棄却する旨の決定の通知を受けた。

二  しかしながら、被告の前記贈与税の課税決定は違法である。

すなわち、本件土地は、原告が、訴訟福山皓三の仲介で、同三一年九月一〇日訴外杉田昌良から代金八〇、〇〇〇円で買受け、その後その旨の所有権移転登記手続を完了したものであつて、原告の夫から贈与を受けたものではない。また、右売買代金額からしても分るように、被告の本件土地に対する評価額は、不当に高すぎる。

三、よつて、被告の前記課税決定は違法であるから、その取消を求める。

(被告の答弁並びに主張)

一  原告の請求原因事実一は認める。同二のうち、本件土地について、訴外杉田昌良から原告へ所有権移転登記手続がなされていることは認めるが、その余は否認する。

二  本件土地は、原告の夫訴外平井房治が、昭和三一年九月一〇日に訴外杉田昌良から買受けて所有権を取得し、その移転登記手続(同月二二日受付)の際に、これをさらに原告に贈与したものである。ただ、登記簿上は、中間取得者である夫房治の登記を省略し、直接前所有者から原告に移転登記手続をしたにすぎないのである。

三  原告は、右贈与を受けたにもかかわらず贈与税の申告書を提出しなかつたので、被告は、原告に対しその主張のとおりの課税決定をしたものである。

四  贈与財産たる本件土地の時価は、次の方法により評価した。

すなわち、宅地の評価は、当該宅地の賃貸価格(土地台帳法―昭和二二年法律第三〇号―によつて定められたもの)に、富裕税財産評価事務取扱通達(同二六年一月二〇日直資一―五国税庁長官通達)に基づき作成された相続税財産評価基準書(同三一年分)所定の評価倍数を乗じて得た額を評価額とするのであるが、本件土地は宅地の賃貸価格が設定されていないため、右通達一三の二により、附近の類似宅地たる同町一七番地、宅地一〇九坪九合七勺の賃貸価格一九七円九四銭(坪当り一円八〇銭)に比例して、本件土地の賃貸価格を一一二円五〇銭と仮りに設定し、右基準書所定の評価倍数二、〇〇〇を乗じて得た二二五、〇〇〇円をもつて、本件土地の評価額としたものである。

五  よつて、被告の本件課税決定については何らの違法もないから、原告の請求は失当である。

(証拠)

一 原告は、甲第一号証を提出し、証人平井房治、同平井豊次、同吉川孝作及び同福山皓三の各証言並びに原告本人尋問の結果を援用し、「乙号各証の成立はすべて認める。」と述べた。

二 被告指定代理人らは、乙第一ないし第五号証を提出し、証人大城朝賢の証言を援用し、「甲第一号証は、官署作成部分についてのみ成立を認めるが、その余は知らない。」と述べた。

理由

原告主張の請求原因一の事実並びに本件土地の元所有者が訴外杉田昌良であり、本件土地につき同人から原告に所有権移転登記手続がなされている事実は、当事者間に争いがない。

そこで、まず、原告がその夫から本件土地の贈与を受けたものかどうかについて判断する。

官署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については証人福山皓三の証言によつて真正に成立したものと認める甲第一号証、成立に争いのない乙第一号証、証人平井房治、同平井豊次、同吉川孝作及び同福山皓三の各証言に原告尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告は、夫訴外平井房治と結婚する前に、自分が働いて五〇、〇〇〇円の金を貯えていたが、夫房治が昭和三一年頃それまで勤めていた鉄工所を辞め、自分で新たに鉄工所の経営をする計画をたてたものの、工場建設のための敷地購入資金の工面をすることができないのを見て、一つには夫の事業に協力するため、二つには自己の財産として金よりも土地を買つておいた方がよいとの考えから、右五〇、〇〇〇円を投じて工場の敷地を購入することにし、同年五月頃不動産仲介の訴外福山皓三に適当な土地の買入れ方を依頼したこと、そしてその後同人との交渉は主として夫房治が行い、結局前記杉田昌良から本件土地を代金八〇、〇〇〇円で買受けることとし、同年九月一〇日手附金一五、〇〇〇円の交付と売買契約書の作成をすることになつたが、その際夫房治は、契約書の買主名義を原告にするよう希望したところ、右福山皓三から、「買主名義は、契約書第四条で登記の際自由に変更できることになつているし、要するに登記名義を原告にしたら問題はない。それに夫婦間のことでもあるから一応買主名義は契約書作成に現実に立会つた夫房治名義にした方がよい。」旨いわれて、買主名義を夫房治にして乙第一号証の不動産売買契約証書を作成したこと、その頃原告は、代金の不足額三〇、〇〇〇円を実家の弟訴外吉川孝作から借り受け、前記手附金を控除した残額六五、〇〇〇円を自分で右福山皓三の店に届けて代金全額を完済したこと、そして所有権移転登記手続は、右契約書と別個に、原告を買主とする不動産売渡証書(甲第一号証)を作成し、これを原因証書として、同月二二日に登記手続を完了したことが認められる。

もつとも、成立に争いのない乙第五号証及び証人大城朝賢の証言によると、原告の大阪国税局長に対する前記審査請求につき、同局協議団所属の協議官訴外大城朝賢が、同三三年九月二五日調査のため原告方を訪れ、原告に質問したところ、原告は、本件土地の購入資金の一部は弟の吉川幸作から出してもらつたが、残額は夫が支出した旨応答していることが認められるが、原告本人尋問の結果によれば、原告はその際、自己の金も夫房治の金も夫婦のことであるから結局区別はないものとの素朴な考えから右のように応答したとも認められるので、右乙第一号証及び証人大城朝賢の証言のみでは前段認定を動かすに足らず、また証人平井房治の証言中、右認定に反する部分は、証人福山皓三の証言及び原告本人尋問の結果と比照し、にわかに信用できないし、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、本件土地は、前所有者杉田昌良から原告が直接売買によりその所有権を取得したものというべきである。

そうすると、原告がその夫から本件土地の贈与を受けたのではないのに、右贈与を受けたものとしてなされた本件課税決定は、その余の判断をするまでもなく違法である。

よつて、右課税決定の取消を求める原告の本訴請求は、正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江菊之助 裁判官 中川敏男 裁判官弓削孟は転任につき署名押印することができない。裁判長裁判官 入江菊之助)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例